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じぶんで整備

じぶんで整備:「たわみ・押力」から張力や周波数を計算する方法

クルマの取扱説明書には、ベルトを点検するための「たわみ量」と「押力(たわみ荷重)」のデータがあります。この 2 つのデータに対応する「張力」や「周波数」を計算してみますね。今回使用した車両は新型コペン(LA400K)です

「張力」や「周波数」が分かるとベルトの点検はスマホでできちゃいます。スマホを使った測定方法ついてはこちら


今日は数式がんばってみまっす

取説のサービスデータから整備に必要な数値を推測

取説(サービスデータ)の整備や点検の情報ってほんとに少なくて、これだけだとどう作業していいのかよく分からないです

うん。整備書の情報を見せてくれればって感じなんですけど、一般ユーザーには公開してくれないんですよね

どうしてもってときは、ディーラーに点検整備に必要な情報として、その都度教えてもらうしかないです

仕方ないので、必要な値は公開情報から計算で出しちゃいましょう

ということで、一般ユーザーに公開されている取説の点検情報から整備や修理に必要な値を推測してみます

計算に必要な情報を集めます

ベルトの情報を集めます

ベルトについては何が分かればいいの?

新型コペンのファンベルトだと、リブ(山)の数、ベルトの厚み、ベルトの単位質量の 3 つ

どうすれば調べられるの?

まず、社外品のベルトの型番を調べるの。新型コペンだと 4PK745 っていうベルトみたい

4PK745 は「Vリブドベルト(Vリブベルト)」と呼ばれるタイプのベルト。リブ数が4、ベルトの形がPK、周の長さが745mm という意味。尚、ベルトの形 PK と K はベルトについてのデータは共通です。PK がミリ表示、K がインチ表示なんだそうです

なんで社外品で調べるの?純正品で調べた方がよさそうな…

純正品と違って、社外品なら技術情報が公開されていることが多いの。今回は三ツ星ベルトさんの製品情報を参考にしました

  • ベルトの型番・・・三ツ星ベルト 4PK745
  • リブ(山)の数・・・ 4
  • ベルト厚み・・・ 5 mm(0.005 m)
  • ベルト単位質量 ρ・・・ 0.0764 kg/m(= 1リブあたり 0.0191 × リブ数 4)

三ツ星ベルトさんのサイトに PDF で置いてあるカタログ(設計資料)が参考になりますね。ベルトの厚みはクルマに使われてる現物を直接測ってもいいかも

ベルトの単位質量については、三ツ星ベルトさんの音波式ベルト張力計ドクターテンションタイプIVの取扱説明書(これも PDF で見られます)に書いてある値の方が桁が多かったのでこちらを参考にしました

いくつかは自分で測る

自分で測るところはどこ?

プーリーの中心(軸)間の距離、2 つのプーリーそれぞれの直径。全部で 3 箇所

  • プーリーの中心間の距離 Lp・・・179.2 mm(0.1792 m)
  • 大きいプーリーの直径 D1・・・120 mm(= 130 – 5 × 2)
  • 小さいプーリーの直径 D2・・・47 mm(= 57 – 5 × 2)

クルマをスロープに載せて、下に潜って測りました。ほんとはタイヤやカバーを外してベルトを露出させて測る方がいいと思うんだけど、ちょっと横着しちゃったんですね

プーリーの中心間の距離を測るときは、なんか慎重でしたよね

うん。そこは出来るだけ正確に測りたかったの。場所が狭かったので、プーリーの軸のボルトにレンチのソケットをはめたら少し測りやすくなりました

プーリーの直径は、測定値からベルトの厚み分を引くんですね

そう、今回はベルトの上から測ったので。実際の測定値自体は 130 mm と 57 mm です

プーリーの直径はそこそこ正確なら大丈夫かなってことで、これもちょっと横着しちゃいました

クルマの取説(サービスデータ)にあるベルトの点検情報も用意

取説のサービスデータにあるベルトの数値は点検時の「押力(たわみ荷重)」と「たわみ量」だけっぽいです

  • 押力(たわみ荷重)F・・・98 N(=10 kgf)
  • たわみ量 δ・・・ 7.6 ~ 9.3 mm
新型コペン(LA400K)の取扱説明書(01999-B2415)より引用

図の位置を 98N で押したときに 7.6 ~ 9.3 mm たわむのが適正な張力ってことなんだけど…

この情報だけだと、ベルトを指で押して「こんなものかな」って点検になっちゃいそう

計算式はこんなかんじ

スパン長(プーリー間のベルトの長さ)の計算

スパン長を Ls ってすると計算式はこんなかんじ

Ls:スパン長 Lp:プーリ軸間距離 D1:大プーリ直径 D2:小プーリ直径

これで点検位置のベルトの長さ(Ls)が出せるんですね

この式は図を描いて三平方の定理を使えばすぐに出せます

「たわみ量」と「押力」から張力の計算

グイっと押したときの力とたわみ量から、ベルトの張力 T を出す式はこんな感じですね

T:張力 F:押力 δ:たわみ量 Ls:スパン長 ρ:ベルトの単位質量

おおっ、これで取説の情報から張力が出せますね

式が複雑すぎてめんどくさい人は、今回の計算に限っては前の方を無視して F Ls / 4 δ だけで計算しちゃっても結果はそんなに変わらないです

尚、ベルトのたわみを直線的に考えて、ベルトの重さも無視しちゃえば、こういう公式を知らなくても図形的に大体の張力を計算することは可能。今回の場合、それでも計算結果はそんなに変わらないです

張力から周波数の計算

張力が分かると、ベルトを弾いたときに出る音の周波数も計算できちゃいます

f:周波数 Ls:スパン長 T:張力 ρ:ベルトの単位質量

ベルトを弾いた音でベルトの「張り」具合が分かるようになりますね

これは弦の固有振動数を計算する式ですね。理数系の人だと見覚えがあるかも

周波数から張力の計算

ベルトの周波数を測定したときに、逆に張力のほうを知りたくなったら式はこんな感じ

T:張力 ρ:ベルトの単位質量 f:周波数 Ls:スパン長

さっきの周波数を出す式を、張力を出すように変形したんですね

弦の固有振動数を計算する式を、張力 T について解けば出てきます

新型コペン(LA400K)で、実際に数値を出してみます

スパン長(プーリー間のベルトの長さ)は 175.4 mm と推定

新型コペンで実際に計算してみますね。計算に使う値の単位は m , kg , N , Hz です

まずはスパン長(点検箇所のベルトの長さ)を計算

  • プーリーの中心(軸)間の距離の測定値は Lp = 0.1792 [m]
  • ベルトの厚みは 0.005 [m]
  • 大きいプーリーの直径は D1 = 0.130 – 0.005 * 2 = 0.120 [m]
  • 小さいプーリーの直径は D2 = 0.057 – 0.005 * 2 = 0.047 [m]
  • スパン長の公式に代入して計算すると、ベルトのスパン長は Ls = 0.1754 [m]

ベルトのスパン長 Ls は 0.1754 m 、175.4 mm ってことですね

「たわみ量」と「押力」から計算した点検時の適正な張力は 465 ~ 568 N くらい

取説の「たわみ量」と「押力」を使って、対応するベルトの張力を計算してみますね

  • 取説の押力(たわみ荷重)F は 98 [N]
  • 取説の点検時のたわみ量 δ は 7.6~9.3 [mm]
  • ベルトのスパン長は先の計算結果から Ls = 0.1754 [m]
  • ベルトの単位質量 ρ は 0.0764 [kg/m](= 1リブあたり 0.0191 × リブ数 4)
  • 張力の公式に代入して計算すると、点検時の適正な張力は T = 464.8 ~ 567.7 [N]

この計算によれば、点検時のベルトの張力 T は 465 ~ 568 N くらいなら適正ってことになりそうですね

点検時の適正な周波数は 222 ~ 245 Hz くらい

算出した点検時のベルトの張力から、ベルトの適正な周波数 f を計算してみますね

  • 先に計算した点検時の適正な張力は T = 464.8 ~ 567.7 [N]
  • ベルトのスパン長の計算結果は Ls = 0.1754 [m]
  • ベルトの単位質量 ρ は 0.0764 [kg/m]
  • 周波数の公式に代入して計算すると、点検時の適正な周波数は f = 222.2 ~ 245.6 [Hz]

取説の点検時のデータに対応する周波数 f は 222 ~ 245 Hz くらいっぽいですね

ベルトを弾いて測定された周波数が 300 Hz だったとき、張力は 846 N

ベルトを弾いた時の音(周波数)が 300 Hz だったとき、ベルトにかかっている張力を計算してみますね

  • スマホで測定したベルトの周波数 f が 300 [Hz]
  • ベルトの単位質量 ρ は 0.0764 [kg/m]
  • ベルトのスパン長の計算結果は Ls = 0.1754 [m]
  • 周波数から張力 T を出す公式に代入して計算すると、張力は T = 846.2 [N]

300 Hz だと、張力は適正な張力の上限(568 N)の 1.5 倍くらいになっちゃってますね

張りが強すぎると、プーリーの軸のベアリングが壊れやすくなるそうです。ウォーターポンプの交換時期が早くなっちゃうかも